宮村 新一 講師
MIYAMURA Shinichi
Tel : 0298-53-4532 or 6681
E-mail: miyamura@sakura.cc.tsukuba.ac.jp

研究領域 植物形態学
研究テーマ 緑色藻類,コケ,シダ,裸子植物の生殖様式・配偶子形成・細胞構造
研究の概要

 緑色藻類およびその一群から進化したと考えられる陸上植物は、水域から陸上まで様々な環境に生活しており、その生活環、生植様式、細胞構造は非常に多様である。そのなかでも藻類、コケ、シダ、裸子植物の仲間は、私たちに馴染み深い被子植物には見られない様々な特徴ある生植様式(同型配偶、異型配偶、卵生殖)や細胞構造(鞭毛装置、眼点、接合装置、ピレノイドなど)を持ち、植物の進化を探る上で興味深い生物群である。

1)陸上植物進化系列の生殖様式と配偶子形成

●スプライン・MLS型鞭毛装置の解析
 地球の陸域を覆っている陸上植物は今から4〜5億年前に緑色藻類の一群(陸上植物進化系列)が陸上に進出することによって誕生したと考えられている。水中から陸上に進出した藻類が生きていくためには陸上という乾燥した環境で子孫を残すことが必要であり、そのため初期の陸上植物は水中での生殖方法を如何にして陸上に持ち込むかを模索していたようである。実際、コケ、シダ植物、裸子植物のソテツ、イチョウでは、多くの藻類の遊泳細胞や配偶子と同様な鞭毛をもった精子を形成し水を介した生殖を行うが、精子と卵の受精は造卵器という多細胞の保護組織の中でおこる。これらの陸上植物の精子は、藻類の性質を残しつつ陸上での生殖に適応してきたものであり、陸上植物の生植の進化を考えるうえで興味深いものである。しかしながら、これらの植物では、生殖に関する多くのことが未解決のまま残されている。

 そこで陸上植物進化系列の生殖様式の進化と配偶子(精子)形成の分子機構について明らかにするために、この進化系列の精子を特徴づけるスプライン・MLS型鞭毛装置(鞭毛本体、基底小体および付属構造)という細胞骨格系に注目した。陸上植物の精子のスプライン・MLSと相同な構造は単細胞緑色鞭毛藻のプラシノ藻綱の一群にも存在することや、精子形成において微小管形成中心として働くことから注目されてきたが、その実体は不明な点が多かった。その理由としてはこれらの精子が微量しか手に入らないために分子レベルでの解析が困難であるためである。しかしながら、最近、精子を多量に形成するシダの突然変異株を用いることで精子の鞭毛装置を単離することが可能になりスプライン・MLSの分子レベルでの解析が可能になってきた。現在、単離された鞭毛装置を用いてスプライン・MLSを構成する分子の解析を進めているところである。

●精子核受容装置
 緑色植物のなかで同型、異型配偶の緑色藻類の配偶子には受精に関係する構造として、接合相手の認識のための鞭毛、細胞融合に働く接合装置などの特異的構造が知られているが、卵生殖をする植物では特別な構造は知られていなかった。ところが、裸子植物のソテツの卵形成、受精について観察した結果、受精後、核融合に先立ち精核を受け入れる受容装置ともいうべき構造が受精直前の卵核に分化することが明らかとなった。ソテツの場合、卵細胞が巨大であり(約2mm)、卵細胞内に入った精核を卵核まで導くのにこのような装置が必要と考えられる。現在、他の植物でも精核受容のための特別な装置が存在するのか調査中である。

2)ピレノイドの構造と機能
 ピレノイドも藻顆およびコケ植物のツノゴケ類に特異的な細胞小器官である。ピレノイドは葉緑体内に存在する球状の小器官であり、光合成の炭酸固定に働く酵素リブロースー1,5ニリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)の集積場所である。一般的にピレノイドはR ubiscoを主成分とする蛋白質の集合体であるが、嚢状緑藻フサイワヅタのピレノイドには葉緑体DNAのほぼ全量が存在するという特異な現象を発見した。現在、葉緑体DNAが局在するピレノイドの構造と機能について解析を進めている。


参考文献
  1. 宮村新一 イチョウの生殖 プランタ 47, 14-20, 1996.
  2. Hori,T and Miyamura,S. Contribution to the knowledge of fertilization of flagellated gymnosperms, Ginkgo biloba and Cycas revoluta. In T. Hori (ed) Ginkgo biloba-A Global Treasure-from biology to medicineJ. Plant Research Special Issue, Springer-Verlag Tokyo, 1997.
  3. Miyamura,S.,Hori,T., Ohya T., Tohma T. and Ikawa T. Co-localization of chloroplast DNA and ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase in the so-called pyrenoid of the siphonous green alga, Caulerpa lentillifera (Caulerpales, Chlorophyta). Phycologia 35, 156-160, 1996.