中山 剛 講師
NAKAYAMA Takeshi
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研究領域 系統分類学
研究テーマ 1)原生動物、特に無色鞭毛虫の系統分類
2)微細藻類、特に緑色藻類の系統分類
研究の概要

 プロチスタ(原生生物)とは藻類や原生動物など主に単細胞性の真核生物であり、私たちの目につくことはあまりありません。真核生物の多様性を考えたとき、私たちは多細胞動物(後生動物)や陸上植物のような多細胞生物の多様性に目が行きがちです。しかし真核生物全体の系統的多様性を見てみると、これら後生動物や陸上植物は数十もの系統群の中のそれぞれ1つ(のさらに一部)に過ぎません。真核生物の系統的多様性はプロチスタの系統的多様性とほとんど同義と言っても過言ではありません。つまり真核生物の系統・進化的全体像をつかむためには、プロチスタの多様性を知らなければなりません。このことは私たちに密接な関係をもつ多細胞生物の起源や進化を考える際にも必須なことです。さらにプロチスタは海洋・淡水域・陸上域さらには温泉や無酸素環境、他の生物体内などあらゆる環境に多量に生育しています。当然これらプロチスタは、生産者や低次の消費者として生態的にも極めて重要な役割を担っています。プロチスタの系統・進化的関係の理解とそれに基づく分類は、あらゆる生物学の重要な基盤となる分野であると考えられます。


真核生物の多様性とそれに占めるプロチスタの位置(青矢印)

 しかし残念ながら、プロチスタの多様性は十分理解されているとは言えません。多くが単細胞性であるため研究の歴史が浅く、認識すらされていない生物が数多く存在します。例えばある池の水を一滴取って顕微鏡下で見てみると、同定すらできない未知のプロチスタが見つかることがしばしばあります。また近年では環境中から直接採取したDNAを用いた分子系統学的研究が盛んに行われていますが、そこでもプロチスタの多様性は我々が現在認識している程度を遙かに上回るものであることを示しています。そこで私はこれまで微細藻類や無色鞭毛虫などプロチスタの系統分類学的な研究を行ってきました。


新規プロチスタたち.

 前述したように野外から採取したサンプルには未知のプロチスタが数多く存在します。それを単離・培養し、実際にどのような生物であるのかを光学・電子顕微鏡によって詳細に観察します。微細構造を中心としたこれら形態形質に加えて18S rDNAなどの分子形質を用いてその生物の系統的位置を調査すると同時に、その生物の分類学的位置を決定します。またこれらの情報から、その生物群がどのように進化してきたのかを考察することができます。既知の生物であってもプロチスタの分類は多分に人為的なものが多く残されており、上述のような情報からその生物の正しい系統・分類学的位置を知ることができます。このような研究を積み重ねることによって真核生物の進化・系統の全体像に迫れるのではないかと期待しています。

1)原生動物、特に無色鞭毛虫の系統分類

 現存する真核生物の共通祖先は無色鞭毛虫的な生物であったと考えられていますが、このことからも無色鞭毛虫の系統的多様性の理解は真核生物の全体像の理解に極めて重要であることが分かります。しかしプロチスタの中でも無色鞭毛虫は最も分類系統学的な理解が遅れている生物であると言えます。無色鞭毛虫の中にいくつぐらいの系統群が存在するのかさえ全く分からないのが現状です。無色鞭毛虫の中には他のプロチスタ(藻類や繊毛虫)や多細胞生物と共に大きな系統群を形成するものもありますが、他の真核生物と明瞭な類縁性をもたないグループも存在します。例えばAncyromonasという生物は、海水・淡水を問わず水圏にふつうに見られる無色鞭毛虫です。しかし微細構造形質や分子形質を調査したところ、他のいかなる真核生物とも明瞭な類縁性を見つけることができませんでした。いまのところこの鞭毛虫は系統的には後生動物や緑色植物にも匹敵する独立した系統群であると言えるでしょう。


Ancyromonasの微細構造と分子系統樹

 私たちは実際にどこにどのような鞭毛虫が生息しているのか?といった基本的なことすら分からない段階にあります。そこで現在、いくつかの環境における無色鞭毛虫のマイクロファウナを調べています。このような調査の過程で、系統的位置を知るための情報(微細構造形質・分子形質)が全く調べられていない鞭毛虫や、全く未知の鞭毛虫が数多く得られてきます。このような鞭毛虫を詳しく研究することによって真核生物の進化・系統における新たな知見が得られるものと期待しています。


さまざまな無色鞭毛虫

2)微細藻類、特に緑色藻類の系統分類

 前述の鞭毛虫に較べれば藻類の系統的多様性は比較的理解されてきていますが、おおまかな枠組みが分かっているにすぎません。特に微細藻類に関しては研究が遅れている部分です。例えば淡水域では多種多様な定数群体性緑色藻類(イカダモのように一定の形・数の少数の細胞からなる群体性緑色藻)が見られますが、伝統的には定数群体という形質から1つの分類群にまとめられてきました。しかし微細構造や分子形質を調べてみると、これらの藻類が決してひとまとまりのグループではなく、系統的にばらばらなものである(場合によっては綱レベルで異なる)ことが分かりました。また微細藻類においても未知のものが見つかることは珍しくありません。最近、新規のハプト藻を発見しましたが、海洋において極めて重要な生態的働きをしているグループである円石藻の進化を考える際に、この生物は重要な位置にあることを示唆する結果が得られています。


定数群体性緑色藻いろいろ

 陸上植物は私たちの生活に密接な関わりをもった生物群ですが、その進化を考えるためには緑色藻類が極めて重要な位置を占めています。緑色藻類の進化・系統の理解に関しては微細構造の研究が多大な貢献をしましたが、それを検証する形の分子系統学的な研究を行ってきました。その結果、原始的な緑色藻類として認識されていたプラシノ藻類は明らかに多系統群であり、ほとんどが狭義の緑藻・アオサ藻綱系列に属する段階群であり、Mesostigma属のみが他とはかなり異なる系統であることが示されました。これらの結果は微細構造形質から想定されていた緑色藻類の系統関係を補強すると同時に、新たな知見もいくつか示していました。しかし緑色藻類の系統には未だに未解決の部分も残されており、複数の遺伝子による検証や新たな生物の探求も必要であると思っています。


緑色植物の18S rDNA系統樹. 水色の部分がプラシノ藻.

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