澤村 京一 講師
SAWAMURA Kyoichi
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研究領域 進化遺伝学
研究テーマ ショウジョウバエを用いた種分化機構の解明
研究の概要

 生物多様性は種の数が増えることによってもたらされ、種分化は進化の原動力である。種とは「互いに生殖的に隔離した生物集団である」(生物学的種概念)から、生殖的隔離の遺伝的要因を解明することは、種分化機構の理解に必須である。生殖的隔離は、生物集団間での交配が妨げられる交配前(あるいは接合前)隔離と、雑種後代の妊性や生存率が低下する交配後(あるいは接合後)隔離に大別される。私はキイロショウジョウバエとその近縁種を材料として、これまで交配後隔離の遺伝的機構を研究してきた。また、最近はアナナスショウジョウバエとその近縁種を材料として、交配前隔離の遺伝的機構に関する研究を開始した。

 キイロショウジョウバエは、真核生物としては3番目に全ゲノムの塩基配列が決定されたモデル生物である(2000年3月)。一般にショウジョウバエといえばこの種を指すが、ショウジョウバエ科(Drosophilidae)は多様性に富んだ大きな仲間で、ショウジョウバエ属(Drosophila)だけでも1700種近くある。したがって、モデル生物で明らかになった様々な情報を利用して、進化を研究するのにとても好都合である。

1)キイロショウジョウバエ類における雑種致死および不妊の研究

 キイロショウジョウバエ類はアフリカ大陸東部およびインド洋島嶼部に起源するグループで、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)の他、オナジショウジョウバエ(D. simulans)、モーリシャスショウジョウバエ(D. mauritiana)、セーシェルショウジョウバエ(D. sechellia)がいる。キイロショウジョウバエ雌とこれら3種の雄との交配では、不妊の雑種雌だけが生まれ、雑種雄は幼虫期に致死となる。一方、交配親の雌雄を入れ替えると、不妊の雑種雄だけが生まれ、雑種雌は胚期に致死となる。これまでに、雑種致死を救済する遺伝子を発見し、これらを解析することにより雑種致死の遺伝的機構を明らかにした。また近年、雑種雌の妊性を回復する交配の組み合わせが見つかり、戻し交配によって種を超えた遺伝子導入(イントログレッション)が可能になった。イントログレッションの解析により、雑種致死や不妊のより詳細な遺伝的機構が明らかになった。

2)アナナスショウジョウバエ類における性的隔離の研究

 アナナスショウジョウバエ類は南太平洋島嶼部に起源するグループで、アナナスショウジョウバエ(D. ananassae)の他、パリドーサショウジョウバエ(D. pallidosa)などが知られている。これら2種の交配では妊性のある雌雄の雑種が生まれ、交配後隔離は見られない。これらの種を分けているのは強い性的隔離であり、同種で観察される一連の配偶行動は完結しない。これら2種では雌の体表面にある性フェロモンの組成および雄が発する求愛歌のパターンが異なるが、性的隔離には特に求愛歌とその認識機構の種特異性が重要であることが分かっている(小熊讓教授と卒業生たちの研究)。この種識別遺伝子の分子レベルでの特定をめざして、現在詳細なマッピングを行っている。

 アナナスショウジョウバエには、キイロショウジョウバエで知られているような遺伝解析ツールが少ないという欠点がある。イントログレッションを作製しても、純粋な形で長い期間維持するのに必要なバランサー染色体がない。最近これを克服する方法を確立した。アナナスショウジョウバエおよびパリドーサショウジョウバエには、雌の減数分裂後(したがって組み換えが起きる)にゲノムの倍化によって2倍体の雌を生じる単為生殖系統が知られている。これらの雑種雌から単一雌に由来する系統を約300確立した。これらの系統は、2種由来の遺伝子をモザイク状にホモ接合の形で持っている(種間モザイクゲノム系統)。分子マーカーを利用して各系統の遺伝子組成を調査するとともに、雌の配偶行動の観察を通して、種識別遺伝子の詳細なマッピングを行う予定である。


参考文献
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